ジビエ

大町市平猟友会
山歩きの好きなジィジ

漁師の心得

 最近は「ハンター」なんてハイカラな呼び方をしているけど、俺らは「鉄砲撃ち」って呼んでいるんだよ。猟の仕方は動物によって違う。山鳥は犬に追わせてとるし、いのしし、鹿は巻き狩り。巻き狩りっていうのは、追う人と撃つ人で勢子とマチに分かれて、一人が追い込んでもう一人が待ち伏せして捕まえるんだよ。

 銃は魔物。猟銃を撃つ時は矢先確認が大切、銃の先に人がいないかしっかり見る。そして構えたら絶対に肩付けからはずさないこと。一番いいのは山の斜面で下から上へ追って撃つこと、斜面では後ろが山肌になるからさ、下から上に撃つのが一番安全。そういうことでいえば山の尾根では撃たないっていうのもある。向こう側から急に人が出てくるかもしれないし、尾根の向こうへ飛んでった玉が何かに当たるかもしれない。気にしない人もいるけど、やっぱりね、昔から言われてることは守ったほうがいいね。

 一人で行く時は雪の上についた獲物の足跡を追っていくんだ。昔は弾もつくった。鉛をフライパンでどろどろにして、缶に穴あけておいて、水の中に落とすと、丸い弾ができる、それを磨いて削る。今はそんなことしないけどね。俺が初めて捕ったのは山鳥。「やったー!」って気持ちだね。親父に見せにいったもん。俺だってとれんだよって。親父も猟師だったからね。

 そうやって猟師を続けてきた中で、一番印象に残ってるのは熊だね。熊は殺るか殺られるかだから。5年前に雪についた足跡をつけて追い込みでしとめた。熊の場合は斜面の上にいるのは撃たない。あれはかぶってくるからね。気にしない人もいるけど、昔は弾がでなかったりしたから、やっぱり安全第一。猟やってて、熊撃つのが魅力だね。クマノイって、熊の胆嚢を干したのは、20年前、金と同じ値段で売れたけど、今はだめだね。つくるのに、最低一週間から10日かかる。すごく苦い漢方薬だね。二日酔いにも、ばしっと効く。飲むときは、オブラートに包んで飲む。クマノイは良いか悪いか、太陽に透かすとわかるんだよ。

 雪の上で撃った獲物の血が雪の白いとこにつくことを赤がつくって言うんだけど、かわいそうとかそういう気持ちはもったらだめだね。やっぱり殺す気で撃たないと。それでも、食べられるために生きている牛や豚の方がよっぽどかわいそうだと思うよ。でも最初に猿を撃つときは、やっぱり抵抗あったね。

 捕った獲物はもちろん料理して食べるよ。鹿はしゃぶしゃぶで。刺身は菌がいるし、おなか壊しちゃうからしないね。熊、いのししは煮たり焼いたり。砂糖、しょうゆ、みそで味付けるけど猟師によって違う。山のものには味噌をいれろって、におい消しになる。いのししは山の味。独特のにおいがいい。なれない人がいるときは、にんにくやしょうがを入れて臭みを消す。今日あるけど食べてみる?口に合うかどうか。臭み消しは入ってないよ。そのまんま。山鳥、野うさぎは食べやすくて正月のご馳走だったよ。

 猟をしていて一番いいことは山を歩くこと。足が強くなるし、健康にいい。若い世代は減る一方だね。一年にひとりかふたり興味を持ってくれる人がいるけどね。猟師になるには銃を撃つ許可をとらなきゃいけないし、それに家族の反対があるからなかなか難しい。やっぱり危ないからね。

 跡継ぎって言えば、山勘のいい人がいるね。地元で土地勘のある人で、一度連れて行くと方向や山のことが大体わかる。そういう人は猟師に向いているよね。この山って言っても、あっち行っちゃう人もいるから。若い世代が減って猟師がいなくなってしまうことは暮らしにも影響があるんだよ。鹿は木の皮、高山植物を食べて枯らしてしまうし、猿は畑を荒らしたり、頭のいいのは戸をあけて民家に入っちゃう。だから猟師っていう仕事は必要だよ。

 猟の期間は、11月15日から2月15日。初日は、朝早く起きて、いつまでたってもうきうきしちゃうね。猟は楽しい。そりゃあやっぱり捕ったときの感じがいいもん。病気でもしなきゃやめられないね。

 猟の期間は、11月15日から2月15日。初日は、朝早く起きて、いつまでたってもうきうきしちゃうね。猟は楽しい。そりゃあやっぱり捕ったときの感じがいいもん。病気でもしなきゃやめられないね。

勢子の血肉

 僕は2年前に大町で鳥獣対策の仕事を始めてから、平猟友会の巻狩りに何回か参加させてもらった。その中でも強烈に印象深かったのは、去年の2月、初めて狩で勢子をした時だった。

 山歩きの好きなジィジは猟師の危険を知っているからこそ、安全第一でいつも仲間の安否を気づかっている。朝の全体挨拶で褌を締めると、勢子とマチに別れて各自の持ち場へと向かった。勢子の僕らは、二ツ屋の送水ポンプ場横から雪山の中へ。かんじきを履いても膝まで沈む雪のなか、上下に等間隔でそれぞれの持ち場につく。開始の合図で仲間と並行して「ほいほーい」と声を出しながら進みはじめた。上り坂では歩くというより雪の上をほふく前進するような深い雪の中、獲物をマチが待ち伏せする方へ追いやっていく。尾根をいくつか周りこんだ頃、無線から息を殺した声が流れた。

 「いた・・・撃つよ・・・」 空気が静まり、その数秒後、銃声が雪山に鳴る。直後、無線から聞こえた「赤がでた!」と叫ぶ声で、血痕をひいて逃げる獣の姿が僕の脳裏にもよぎる。雪山にザーと響くノイズから、周りに散らばっている猟師の士気が凝縮されていくのを肌が感知する。邪魔にならないよう、息を殺していると、木のあいだに猟師の一人が見えた。近づこうと思った瞬間、獲物をみつけたのか、僕の倍の月日を生きた人が、信じられないスピードで走りさっていく。力と技と経験とアドレナリンの塊が雪山の奥へ消えていった数十分後、銃声が何回か山に響いたのち、鉄砲撃ち達が山から猪を引いて降りてきた。 

 山に入り、獣を狩り、それを食べる。その晩に焼いた肉を食べた時、他の生命が自分の血肉になるということが、初めて腑に落ちた。